富士通コンピュータ事業の礎を築いた池田敏雄は、天才肌だが、かなりの変人だった。自宅でアイデアが湧くと、夜昼なく設計をはじめて、出社するのを忘れてしまうこともしばしばだった。何日も自宅に引き籠り、設計図を書いていたかと思うと、退社時間にとつぜん会社に現われ、部下に設計の変更を伝えたりした。帰り支度をしていた部下たちは、一転して深夜残業を強いられることになった。

 こういうことが度重なるので、彼の部下も上司も、「天才の奇行」に頭を痛めていた。勤務時間内に出社しない池田には、タイムカードの記録がないため、給料を支給するのにも一苦労だったという。たまりかねた上司は、池田を呼んで、こんな説諭をしなければならなかった。
「君は課長なんだから、毎朝ちゃんと会社に出てこなきゃダメだ」

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