インターネットの起源
  ケイティ・ハフナー&マシュー・ライアン著加地永都子・道田豪訳
   アスキー・平成12年

 Keite Hafner and Matthew Lyon,Were Wizards Stay-The Origins of Thd Internet,1996.の邦訳です。インターネットのルーツとなった、ARPAnet(アーパネット)の誕生から終焉までを追ったドキュメンタリーです。ハードな内容をのわりに読みやすく、訳文もこなれていて、このテーマでは、目下のところ決定版といえる本です。関係者への直接インタビューを盛り込み、人間的なエピソードも盛り込まれ、歴史資料の側面と読み物としてのおもしろさのバランスが取れています。

 この分野では、浜野保樹の『極端に短いインターネットの歴史』(晶文社)が巧みに全体像を要約していますが、本書はその主要なタネ本となっているようです。また、浜野氏の『極端に……』は、ARPAnetの誕生までしか書かれていませんが、ここではその終焉(役割を終えて、現在のインターネットに引き継がれる)までが描かれています。

 取材には、アーパネット構築の立役者として知られる民間企業BBN(ボルト・ベラネク&ニューマン)社が全面協力しているそうです。
 本としての作りも丁寧で、翻訳スタッフの真摯な編集態度には頭が下がります。事項・人名索引が緻密に作られており、関連年表も付いています。さらに「人名和英対照表」では、日本語(カタカナ)表記と英文の綴りが併記されていて、コンピュータ開発者のフルネームと正確な綴りがわかるのが魅力です。

 ただ、影響力の強い本であるだけに、論議も呼んでいます。本書では、ARPAおよびARPAnetが、軍事目的ではなく、純粋に学術的な目的で運営されていたことを強調してます。「インターネットは核戦争時の通信手段として開発された」と信じている人たちからは、これを歴史の改竄として非難する向きもあるようです。 (カゼの秀丸さん)