思想としてのパソコン
  西垣通・編著訳
   NTT出版・平成9年

 この本も、思想書と勘違いされてしまいそうですが、あくまでコンピュータの開発思想に関する本です。

 パソコンの設計思想に影響を与え、コンピュータ史の節目を形成してきた重要論文7本を収録した論文集です。索引と各論文執筆者の略歴も付いております。

 『ワークステーション原典』にも収録されたヴァネヴァー・ブッシュ「われわれが思考するごとく(As We May Think)」、J.C.R.リックライダー「ヒトとコンピュータの共生」にくわえて、A.M.チューリング「コンピュータと知能」、ダグラス・C.エンゲルバート「ヒトの知能を補強増大させるための概念フレームワーク」、テッド・ネルソン「インタラクティブ・システムとバーチャリティ設計」など、コンピュータ史の主要論文がずらりと揃っており、“コンプリート版”の感があります。

 編訳者・西垣通による「思想としてのパソコン」(序章)は、本書収録論文の解題と、パソコン思想史の批判的概論です。この解題論文はとてもわかりやすく、これだけ読んでも開発思想のおおまかな流れが掴めるようになっています。

 アラン・ケイの歴史的論文「パーソナル・ダイナミック・メディア」が収録されていないのが画竜点睛を欠いていますが、これはアスキー出版局の『アラン・ケイ』にすでに邦訳・収録されているためのようです。つまり、『アラン・ケイ』と本書を揃えていれば、パソコン・ワークステーションの歴史に関する歴史的論文は、おおむね揃ったことになります。さらに『ワークステーション原典』がこれに加われば、まさに「三種の神器」といった感じになります。
 (カゼの秀丸さん)